



夫婦33年。今さら優しくする夫に、素直になれない私
――心理学から見る「埋まらない心の溝」と向き合い方
新婚時代と今の距離感
職場の休憩室で、新婚同僚が笑顔で話していた。
「一緒にお風呂入ってますよ〜」
その言葉に、私は思わず微笑む。
ああ、私にもそんな時期があったな、と。
でも結婚33年経った今、夫との関係は「仲がいい」とは言えない。
干渉せず、お互い好きなことをして暮らす日々。
会話は減ったけれど、孫の話で笑う時間もある。
決して「終わっている」わけではないが、距離はある。
あの頃、助けてほしかった
私が一番苦しかったのは、子育て真っ最中の頃だ。
- 夜泣きしても起きない夫
- 子どもが熱を出しても病院へ行くのは私
- 運動会や授業参観もほぼ不参加
- 私自身は産休ほぼなしで半年で職場復帰
あの頃は「母親だから当然」という社会の空気があった。
でも、本当はただ「ひとりじゃない」と感じたかった。
今さら優しくする夫
そんな夫が定年退職してから、急に優しくなった。
- 朝、コーヒーを入れてくれる
- 洗濯物を干してくれる
- 買い物に付き合ってくれる
もちろんありがたい。
でも心のどこかで「今さら?」という感情が芽生える。
あの頃の孤独を思い出すたび、優しさを素直に受け取れない。
心理学的解説①:和解か、償いか
心理学には「償い行動(reparative behavior)」という概念がある。
過去の行動で傷つけた相手に対し、後になって優しさや行動で埋め合わせようとすることだ。
夫の変化も、この一種かもしれない。
しかし償い行動は、受け取る側の心が準備できていなければ「ありがたさ」よりも「皮肉」や「虚しさ」を感じることが多い。
理由は簡単で——過去の痛みは「その時」に寄り添ってもらうことでしか癒えないからだ。
心理学的解説②:男女の役割意識と時代背景
昭和後期〜平成初期に結婚した世代の多くは、固定的な性別役割意識の中で暮らしてきた。
- 男性=外で働き、経済的支えになる
- 女性=家事・育児の主担当
この構造は心理的にも「お互いの苦労を想像しづらくする」。
結果として、妻は「理解されない孤独」、夫は「感謝されない孤独」を抱えやすい。
心理学的解説③:感情の未完了
心理療法では、過去に解消されなかった感情を「未完了の感情」と呼ぶ。
これは時間が経っても薄れず、似た状況で再び顔を出す。
私の場合、子育て期に「助けてほしかった」という気持ちが未完了のまま残っている。
だから今の夫の優しさを見ると、感謝よりも「あの時は?」という思いが先に立つ。
どうすれば埋まらない溝と向き合えるか
- 感情を言語化する
「助けてほしかった」「ありがとうがほしかった」と、当時の気持ちを紙や日記に書く。
感情を見える形にすることで、自分の中で整理が始まる。 - 小さな感謝を試す
いきなり許そうとしなくていい。
ただ「コーヒーありがとう」と事実だけを受け取る練習をする。 - 過去の自分を労う
「あの時の私はよくやった」と、自分に向けて労いの言葉をかける。
自分を認めることが、過去への執着を少しずつ手放す第一歩になる。
夫婦の形はひとつじゃない
夫婦が仲良く寄り添って老後を過ごすのは理想かもしれない。
でも現実には、距離があっても成り立つ関係もある。
干渉せず、必要な時だけ協力し合う——そんな形もある。
心理学者ジョン・ゴットマンは「安定した夫婦関係は、必ずしも情熱的である必要はない」と述べている。
重要なのは「互いを完全に拒絶しないこと」だ。
まとめ
今さら優しくされても、すぐに心が開くわけではない。
それは冷たさではなく、「その時」に寄り添ってもらえなかった痛みの反応だ。
夫婦の長い時間の中で生まれた溝は、一方的な努力では埋まらない。
けれど、完全に断ち切るのではなく、細い橋だけは残しておける。
その橋がある限り、再び歩み寄る可能性もゼロではない。
そして本音を言えば、私の願いはただひとつ——
「あの時、あなたとちゃんと向き合いたかった」


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